2025年12月2日火曜日

農業経営における「無借金経営」の選択

1. はじめに


経営の一般論として、適切に借入れを行い、手元の現預金(キャッシュ)を厚くしておくことは、経営安定化のセオリーと言えます。

特に農業は、天候不順や病害虫、災害、さらには市場価格の乱高下といった不可抗力のリスクに常にさらされています。そのため、他業種以上に借入れによって現金のバッファ(余裕資金)を確保しておくことが推奨されます。

しかしながら、農業特有の事業構造や、経営者自身のライフステージによっては、あえて外部からの資金調達を行わず、自己資本のみで運営する「無借金経営」こそが最適解となる局面も確かに存在します。

今回は、あえて借金をしない経営が戦略的に有効となる3つのシチュエーションについて考えてみます。

2. 無借金経営が正当化される3つのシチュエーション


借入れをしないことが正当化されるのは、主に以下の3つのケースです。

一つ目のケースは、規模の拡大(面積の拡張)を追わず、単位面積あたりの収益性を極限まで高めている経営体です。

例えば、高級贈答用の果樹や、ブランド化した野菜等を全量直販しているケースなどがこれに当たるかと思います。

こうした経営体では、一般的な市場出荷型の農業とは異なり、価格決定権を自らが持っています。その結果、極めて高い営業利益率(30〜50%など)を実現し、毎年の利益剰余金だけで翌年の運転資金や小規模な設備更新を十分に賄うことが可能になります。

この場合、無理に借入れを行って農地を拡大しようとすると、品質管理の低下や、熟練労働力の不足といった「規模の不経済」を招くリスクがあります。

「目の届く範囲で最高品質を作る」ことを戦略とするならば、豊富な自己資金の範囲内で経営を行い、金融コストを支払わない無借金経営は極めて経済合理的です。

二つ目のケースは、経営者の高齢化に伴い、積極的な投資を控えて事業の出口(廃業または現状維持での承継)を探っている段階です。日本の農業従事者の平均年齢が高齢化している現状において、最も現実的なシナリオと言えるでしょう。

農業融資、特に近代化資金やスーパーL資金などの制度資金は、償還期間が長期(10年〜20年)に及ぶことが一般的です。もし後継者が不在、あるいは後継者が「農地は引き継ぐが、借金までは背負いたくない」と考えている場合、新たな大型機械や施設を借金で購入することは、相続時の大きな障壁となりかねません。

このフェーズにおいては、「既存の設備をだましだまし使い続ける」「作業の一部を外部委託することで固定費を変動費化する」「借入金を完済してきれいな状態で引退・承継を迎える」といった動きが最優先事項となります。

ここでは、成長よりも「資産と負債の整理」が目的となるため、借入抑制(無借金経営)が正当化されます。

三つ目のケースは、経済合理性よりも特定の栽培理論やライフスタイルを最優先する場合です。

金融機関からの融資を受ける場合、当然ながら「返済能力」や「事業計画の蓋然性」が問われます。銀行はどうしても、確実な収穫量が見込める方法や、一般的な栽培方法によるリスク低減を求める傾向にあります。

しかし、実験的な農業に取り組む経営者にとって、こうした金融機関の意向(収益性・効率性の追求)は、自らの目指す農業のあり方と相反することがあります。返済プレッシャーや銀行からの経営指導がノイズになってしまうでしょう。

誰にも干渉されず、自らの哲学に基づいた農業を貫くためには、自己資金の範囲内ですべてのリスクを許容する無借金経営が、精神的自由を確保する強力な手段となります。

3. まとめ


農業における無借金経営は、単に「借金が嫌いだから/怖いから」という感情的な理由だけで選ぶべきではありません。

「不可抗力のリスクに耐えうるだけの現預金が既に蓄積されていること」

「明確な戦略的理由(高収益・適正規模の維持、円滑な承継、経営の自由度確保)があること」

上記の条件が揃っている場合にのみ、無借金経営は強力な戦略となり得ます。自身の経営ステージや目指す形と照らし合わせ、資金調達のスタンスを改めて考えてみる必要があります。


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2025年11月14日金曜日

昔作ったロゴを Gemini の Nano Banana で復活させてみた

昔作った自作ロゴを Gemini の Nano Banana を使って復活させてみました。



元画像はこんな感じ。



すごい&おもしろいですね。

このロゴはもうずっと使っておらず、唯一PCでブログを表示した時にこっそりと佇んでいるのみでした。

しかし、せっかく復活させたので、何かしら活躍させられたらなと!

キャラクターはいいですよね。


・追記(2025-11-16)

Veo 2 で動かしてみました。

2025年11月13日木曜日

蔵のある風景

蔵のある風景

蔵のある風景。


蔵のない風景

蔵のない風景。


蔵跡の更地

更地。


先日、蔵を取り壊しました。

東日本大震災の際に、壁や扉、屋根などだいぶ壊れたのですが、柱に傾きはないらしいとのことで、そのままになっていました。

しかし、ここ数年で内部がかなりひしゃげてきてしまいました。

崩れて手が付けられなくなる前にどうにかしなければと思い、業者に頼んで解体してもらいました。(相当きれいに解体・撤去して頂きました。本当に感謝しかありません)

この蔵は、登記簿上は建築年が明治20年と書かれているのですが、これは登記法ができて登記したということだと思われます。

その後、不確かな情報ながら明治22年頃に改築したらしいので、はじめに建てられたのはおそらく江戸時代じゃないかと思います。

今まで当たり前にあった建物がなくなると、なんだかすごく広く感じますね。


中からは、いろいろ出てきました。江戸時代頃からの文書なども多数あり、非常に興味深いです。

まだ全く整理しきれていませんが、片付け中に撮った写真を一部だけ。

磐城名産梨

「磐城名産 本場 梨」


馬具 鞍

「馬の鞍」


絵葉書

「絵葉書」


ちなみに、出てきた家関連の文書に関しては叔父がいろいろ調査しているようです。


さて、あとは楽しい建物滅失登記です。先人の知恵を借り、自力登記を試みます。

2025年11月9日日曜日

【定期】家計の見直し(2025年11月)

少し間が空きました。久しぶりの家計の見直しです。

・クレカ2枚+デビット1枚

今年はじめにエポスゴールドカードを解約予定と書いたのですが、それに加えてさらに楽天カードも解約し、クレジットカードはとうとう2枚になりました。

その代わり、新たなにデビットカードを1枚使い始めました。

現在の体制は以下の通りです。

① 三井住友カード ゴールド(NL) → 固定費・積立
② ビックカメラSuicaカード → Suicaチャージ
③ 住信SBIネット銀行 デビット Point+ → 買い物

三井住友カード ゴールド(NL)は、年会費無料化済み。

デビットカードは住信SBIネット銀行の Point+ です。年会費無料で還元率は1.25%です。条件により最大2%まで上がります。

先日、住信SBIネット銀行は「スマートプログラム」の改定発表がありました。

いろいろと優遇条件が変更になるとのことでSNSでは改悪との声が多いようですが、個人的には口座振替1件で他行宛振込5回確保できて、デビット還元率1.25%なら十分です。アプリで ATM が使えるのも便利。

クレカ2枚は VISA で、デビットは Mastercard なので、分散もできています。これで、ホントのホントに必要最小限、のはず。

管理はとてもしやすくなりました。


・AI はほぼ Google製を使用

家計の見直しとはちょっとズレるかもしれませんが、使用する AI がほぼ Google製に落ち着いてきました。

スマホでは用途に応じて、Gemini、NotebookLM、AI Studioを使用しています。コーディングの際は VS Code で Gemini CLI を使っています。無課金です。

一時期、Claude を課金して使っていましたが、現状の使い方では無課金で満足できています。

そのうち AI への課金が当然のような世の中になるのでしょうか?それとも、これまでの Google 検索のような立ち位置になるのでしょうか。

ニュースなどで、AI の稼働にかかっているコストなどを見るととても無料というわけにはいかなそうですが、どうなのですかね。


・昨今の雑感

みなさま、昨今の景況感いかがですか?

物価は確実に上がっており、一方でそれに対応した価格転嫁や賃金上昇には相当グラデーションがある、というのが個人的な印象です。

「物価高きつい」というのも、過渡期に一時的に発生しているのであればじっと堪えるのみなのですが、やはり構造的に変化してしまう部分も出てくるでしょうから、そこがこわいですよね。

うちも、仕事にしろ生活にしろのほほんとはしていられません。無駄をそぎ落とし、効率的に。一足飛びにはいきませんが、地道にコツコツやっていきましょう。


秋明菊

少し前の写真(10/28)ですが、秋明菊。


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2025年10月15日水曜日

アメダスのデータからビニールハウス内の温度を推定する

原木椎茸を栽培しているビニールハウスは、Raspberry Pi で作った温湿度ロガーでデータを取っていたのですが、昨シーズン、ちょっとした不注意で壊してしまいました。

そこで、再度同じものを作るのも面白くないなと思いまして、今シーズンは、これまでため込んだデータ(の一部)を使って、アメダスのデータからビニールハウス内の温度を推定するかたちで運用してみることにしました。

ちなみに、以前にも「観測所の気象データからビニールハウス内の温度を推定する。」ということをやっているのですが、この時は1日平均の温度の推定のみでした。

今回は、アメダスから取得したデータを使用して、その時点でのハウス内の温度推定を試みます。

これができると、センサー無しでアラート配信のほか、栽培中の温度の平均値や標準偏差、積算温度(℃時)の算出などが可能になります。Google Apps Script で稼働しておけばコストもゼロです。

昨今、スマート農業というと莫大な投資をしてすごい設備入れてみたいなイメージが強いですが、こういう小さくパソコン1台からできるスマート農業もあると思うんですよね。


閑話休題。

さて、まずはある期間にビニールハウスで取得した温度と、最寄りの観測所の温度を突き合わせてみます。温度は、1時間平均の値となっています。


見た目はまずまず。決定係数(R²)が 0.711、P値も 0 ということで、このまま運用できないこともなさそうですが、標準誤差3.86 となっており、もう少し精度を上げたいところです。

線形回帰直線の上部にあってバラけて見えるポイント群をどうするかですね。


経験的に、ハウス内の温度に大きく影響するのは日照時間です。

そこで、過去2時間の日照時間(範囲:十進数で 0〜2)が 0~1 となっているときの温度のみをプロットしてみました。状況としては、曇りや雨などの日差しが弱い時と夜間が該当します。


決定係数 0.876、P値 0、標準誤差 2.09 となり、だいぶよくなりました。


次に、日照時間が 1.1~2 の日差しが強い時のデータです。

ただ、朝夕と昼では同じ日照時間でも温度の上がり方が異なりますので、さらに時間帯で分けてみました。昼が10時~14時で、朝夕はそれ以外です。


朝夕は、決定係数 0.735、P値 0、標準誤差 2.77。



昼は、決定係数 0.721、P値 0、標準誤差 2.47。

やはり、朝夕と昼の回帰式では傾きや切片にかなり違いがあります。

決定係数はともに全データのときと大差ないですね。日差しがあるとどうしてもぶれが大きくなるようです。ただ、標準誤差が小さくなったので扱いやすくなりました。


今シーズンは、とりあえずこれで運用してみようと思います。

手順は、以下の①〜⑤の通りです。アメダスのデータは、以前自作した Web API(https://www.cultivationdata.net/weather-web-api.html#amds)から取得します。


① 最寄りのアメダスから温度(temp)、1時間日照時間(sun1h)、データの時間(dataTime)を取得

② 1時間前のアメダスのデータにアクセスして1時間日照時間(sun1h)を取得

③ 2時間日照時間と時間帯で条件分岐して回帰式を計算

④ ビニールハウスの温度を推定

⑤ 70%予測区間で高温時のアラート配信

2025年10月7日火曜日

徒然じゃない日々(32)

先日、「株高不況」(藤代宏一・著)を読みました。


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「なぜ、株価は好調なのに庶民はその恩恵を感じられないのか。」というテーマについて書かれています。

大きな結論としては「生活防衛のために、一定のリスクを受け入れ、インフレに強い株式を保有することが重要」と論じられています。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

昨年から新NISAも始まりましたが、やはり増やすためというよりは、守りのために投資が必須になってきているように感じます。


あと、農家として気になるのは農業経営自体のインフレ耐性ですね。

農業には、燃料、肥料、農薬など、多くの生産資材が必要ですが、これらの価格はインフレによって高騰します。さらには人件費ですね。

昨今、生鮮食品のインフレ率が非常に高くなっており、一見しっかり価格転嫁がなされているように見えるのですが、一方で、中小企業庁による価格転嫁に関する調査では、全業種の平均以下という結果になっており、なかなか苦戦しているようです。

特に、設備投資が重く薄利多売になる作物ですと、簡単に利益がふっ飛び、価格転嫁のちょっとしたタイムラグが致命的になります。

月並みですが、価格転嫁のみに頼らず、地道な効率化と経費節減によって頑健な経営体質を作っていかねばと思うところです。


原木椎茸


やや脱線しますが、就農時に迷うことの1つが、併用不可の農業者年金とiDeCoのどちらに加入するかです。

基本的には関係機関(?)により農業者年金の方を推されることが多いと思うのですが、個人的には制度としてシンプル、かつ自由に運用商品を選べるiDeCoの方が好みです。


農業者年金については、今後しっかりインフレに対応した運用ができるものなのかという点が気になります。

これまでの運用実績を見ると、平均利回りは2%台後半となっています。

公開されている議事録を読むと、当然インフレへの対応は意識されていますが、それでも期待リターンは2%台となっています。

この場合、インフレ負けして実質的にはマイナスということにもなりかねない気がするのですが、どうなのでしょうか。

今の時代、「(表面上)絶対に損させません」ということの代償は大きいのだなと思います。

2025年9月23日火曜日

稲刈りラストスパート、原木椎茸の発生準備

稲刈り後の田んぼ

稲刈りもラストスパートになりました。

9月初旬、もち米のスタート時には真夏の陽気でしたが、今やすっかり、というか突然に秋の空です。

朝晩、だいぶ肌寒くなってきましたので、急ぎ原木椎茸の発生準備も進めていきます。


今年も、お米騒動は継続していますね。農家としても、なかなか舵取りが難しいところです。

原木椎茸に関しては、3年ほどかけて規模調整を実施していく予定なのですが、お米についてもしっかり考えなくてはいけないですね。


なにはともあれ、今やるべきはより良い栽培です。頑張っていきましょう。